09-05 著者:admin
8月中旬、厳しい日差しが照り付ける中、大阪・ミナミの道頓堀は訪日外国人観光客(インバウンド)であふれかえっていた。2度目の道頓堀という浴衣姿の中国人女性、黄氷清(26)は「街並みが楽しく、食べ物がおいしい。買い物もできる」と、写真撮影を楽しんでいた。
昨年度、大阪観光局が関西国際空港でインバウンドを対象に実施した調査で、大阪の訪問先として大阪城(53%)やユニバーサル・スタジオ・ジャパン(41%)を差しおき、道頓堀が72%とトップになった。
「観光で一番大事なのはリピーターやからね」
道頓堀商店会事務局長の谷内光拾はこう強調する。ごみが一定量たまると自動で圧縮し、蓄積量を遠隔で把握できるスマートごみ箱や防災・防犯情報を外国語で呼びかけるスピーカーを設置するなど、1日4万~5万人が行き交う街でインバウンドに安心して楽しんでもらうことを目指してきた。
現在、関空の国際線利用者の主力はインバウンドだ。平成6年の開港時は、国際線利用者の約75%は日本人だったが、令和5年度は外国人が約8割と逆転。急速に経済成長を遂げるアジアの旅客需要を取り込んできた。
「グリコの看板」をはじめ大阪カルチャーを象徴するランドマークなどインバウンドを惹(ひ)き付ける魅力にあふれ、関空と鉄道で直結するミナミ。世界とつながる大阪都心の玄関口になった。
一方、ビジネスの中心地、大阪・キタから約50キロの海上に浮かぶ関空は「遠い空港」というイメージが付きまとう。産経リサーチ&データが8月、関西地区で実施した関西3空港のイメージの調査(複数回答)では、「遠い」は関空が約52%で最多。これに対して「交通アクセスがいい」は大阪(伊丹)空港が約61%で最多だった。
この「遠い空港」を解消する交通アクセスの整備が進んでいる。関空からミナミを経由しキタをつなぐ新たな鉄道ルート「なにわ筋線」の建設で、促したのは増え続ける関空からのインバウンドだ。南海電鉄でも関空から新大阪駅まで直結し、現在より10分以上の時間短縮も期待できる。
なにわ筋線は平成元年の運輸政策審議会の答申で構想が浮上したまま、なかなか具体化しなかったが、インバウンドの増加やキタの新エリア、うめきた2期(グラングリーン大阪)の開発整備など条件がそろってきたことから大阪府市、JR西日本、南海電気鉄道などが建設推進で合意した。国が平成31年度予算で事業化し、令和13年の開通を目指して建設が進んでいる。
「近い空港」に向けたインフラ整備も進む中、課題は都心部以外への波及効果だ。大阪観光局の調査では、大阪府内に滞在したインバウンドのうち大阪市外を周遊したのは17%に過ぎない。大阪市以外は「パッシング(素通り)」されていく状況で、関空の地元である泉州地域などでは振興を求める声が上がる。
改善の兆しもある。関空対岸の大阪府泉南市は空き地が続いていた「りんくうタウン」の公園用地を府から借り上げ、民間委託で令和2年に「泉南ロングパーク」を整備し、海岸沿いのコテージや商業施設はコロナ禍でも人気が高まった。周辺で民間開発も始まり、同市成長戦略室長の伊藤公喜は「投資意欲が市域に向き、好循環が生まれている」と手応えを語る。
ただ、インバウンドに依存する活性化には不安がつきまとう。
空港政策に詳しい慶応大教授の加藤一誠はビジネス需要も強く貨物便も充実している首都圏空港と比べ、路線の多様性では追いつけないと指摘した上で、「将来、成長が止まって安定軌道になったときの対応をどうするか。日本人旅行者の増加を目指して手を打っておくべきだ」と強調する。
停滞と活況を経験してきた関空の30年。真の国際拠点空港へ、真価が試される局面に入った。=敬称略
(この企画は藤谷茂樹、矢田幸己、木津悠介が担当しました)